ペンフレンド
僕はこの春、カメラマンの助手として都内の出版社に勤務している。まだカメラマンとして半人前だが
いつか独立して世界を飛び回って活躍できる日を胸に秘め先輩から怒鳴られながら下積みの雑業を
する毎日が続いている。いつも残業で遅くなり定時で帰宅することなどないけど久しぶりにこの日は
定時に帰宅出来た。四谷駅から総武線千葉行きの電車に乗り込み、ぼんやり車窓を眺めていたとき
後ろから突然、声をかけられた。
『先輩、お久しぶりです』 『 ! ? 』
『あら、やだぁ〜、覚えていないんですか ?』
『光恵です・・・』
『みっちゃんか・・・・』
『覚えていてくれたんですね』
彼女は紺の制服を纏い鞄を後ろ手に持って微笑んでいる。
『 今、高３です。大学受験控えているから・・・・・』
まだ、彼女は高校生とはいえ、心惹かれる気持ちが正直言ってあった。
『お願いがあるんですが・・・』
『わたしの友達とペンフレンドになってくれませんか ?』
『可愛い、みっちやんの頼みなら断れないよ』
『先輩、お世辞がお上手なんですね』
『彼女には３歳下の妹がいて、学校も女子高なものですからお兄さんにあこがれているんです』
『明日、学校で伝えます。きっと彼女喜ぶと思うわ』
やれやれ、まったくもってなんで高校生なんかとペンフレンドしなければならないんだ。
それから１週間後、差出人の無い封筒が届いた。
こんにちは、初めまして。この度 親友の光恵さんのおかげで あなたと文通をはじめられそうな、
わたし敦子です。 そう ! あくまで始められそうなんです。
今は、だって あなたは、この一番最初の手紙を読んで、こんな 馬鹿馬鹿しい 気に入らない
相手なんかに返事を出すものか ! と思っているかもしれません。おまけにその可能性
多分に有りなのですから・・・まず、わたしのこと書こうと思います。
記載は次のページに書き記しておきました。
星座は双子座のピチピチの１８歳です。光恵さんと同じクラスの３年Ａ組です。
家族 父母、妹ひとり
恋人、ＢＦの有無 現在０人
こんなわたしが、なぜ文通をやりたくなったかと言いますと、話し相手が欲しかったのです。
わたしはケイタイが大嫌いなんです。友達はみんな持っているけれど使いたいと思いません。
パソコンでメール送れればいいけれど、わたしパソコン持っていないし使えません。
どうしても手紙を出したくなって、どこかに物好きな人はいないかしら・・・と光恵さんに頼んだ
というわけです。あなたが年上で、わたしは、とても喜んでおります。何故かといいますと、
わたしには、妹しかいません。それで昔から、お兄さんが出来るのが夢だったんです。
不運なあなたは、物好きなお兄さん代わりにされてしまうかもしれませんよ。気をつけなくては
いけません。わたしはとてもズーズーしいので・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
なんだか、とりとめのない話ばかりで、あまり幼いのでびっくりされたことと思います。
本当にわたしはズーズーしいでしょう。こうして見ず知らずの相手に、しかも一番最初の手紙
から、こんなになれなれしく書いたりして・・・・・・・と自分でも思うのですけれど・・・・・・・
でも、どうせ気取ってみても、わたしなど すぐボロが出ちゃいますから、こうなったら最初から
ボロボロで行っちゃえ!! と決心した次第なのです。来週の水曜日から期末テストです。
それなのに、わたしはＣＤばかり聴いています。えっ、何を聴いているかですって?
ショパンが好きです。それほどクラシックに精通しているわけではありませんが・・・・・・・・
何故か、たまらなくショパンが好きです。他には林檎、ドリカム、ヒカルなんかも聴いています。
小説家では、太宰治、詩人は高村光太郎・・・好きな数字は１、色は、ブルーが好きです。
なんだか、馬鹿なこと書いてしまいました。きっとあなたは、呆れて相手にならないと決断を
下してしまうような気がします。でも、わたしは、わたし 変えようがないのですから、ありのままを
書きました。手紙って面白いですね。ひとりでに、どんどん、どんどん話が進んで行ってしまいます。
見たこともない、あなたの笑い顔が浮かんできます。でも、見ず知らずの方に手紙を書くことが、
こんなに楽しいなんて、知りませんでした。そうそう、文通を始めたくなった動機を一つ書き落
としてしまいました。現在の男性は、常日頃、どんなことを考えたり、思ったりしているのか ?
知りたいと思ったのです。未だに好奇心旺盛のようです、わたしは・・・・・・・・・・・・・・
どうぞ、この手紙を読んで返事を書きたくなったのなら、手紙ください。本当に、わたし自信
ないからあんまり期待しないことにしているんです。それでも、返事が来たら嬉しいな・・・・・・・・・・・
などと思ったりして・・・・・・・ では、さようなら
あなたの可愛い妹、敦子より １２月１０日
初めまして、敦子さん!克彦です。あなたの手紙読ませてもらいました。親友の光恵さんから僕のこと
大雑把に聞かされていると思いますが君の期待にどれほど応えられるか分かりませんが出来るだけ
返事を送ることにしますからご安心ください。僕は２３歳で今、カメラマンの真似事をしています。
まだ、半人前ですが夢は世界を駆け回って活躍する報道カメラマンになりたいです。
仕事柄、カメラとノートパソコンを持ち歩きメールを送る機会が多いのですが、パソコンが漢字を
自動変換してくれるのにかまけて、いざ自筆の手紙を書こうとすると漢字が思うように出てきません。
ですから辞書を引き引きもう一度学生に戻ったつもりでこの手紙を書いています。
君のことを、これからはアッちゃんと呼ばせてもらいます。アッちゃんは妹さんがいるのですね。
僕は２つ下の弟がおります。男ばかりだから思いもかけず素敵な妹が出来たと喜んでおります。
近頃の高校生は大人びているから僕のような純情な人間はこの先どんなことになるやら戦々恐々
としております。どうか、お手柔らかにお願いします。肝心の勉強の方もなまけないでしっかり勉強してくださいよ!
風邪引かないように気おつけてください。
それでは、今日はこのへんで・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・克彦より １２月１１日
こんにちは!! あなたからの返事、たった今届きました。夢みたいな気がしてホッペタ抓っています。
本当の事言うと、こんなに早く返事が返って来るなんて思ってもみませんでした。だからもう嬉しくて !
ミッチーに感謝しなくてはいけませんね。明日さっそくお礼を言います! 明日からテストなので今日は
これで失礼します ・・今の気持ちを忘れないようにと思って書いたのです。後で、もっといろいろな事を
書くつもりでいます。覚悟しておいてください。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・敦子 １２月１３日
アッちゃん、こんにちは!! 僕の手紙、そんなに喜んでくれていたなんてびっくり仰天、雨嵐だよ !!!
仕事が忙しいから返事出すの止めにしょうかと思っていましたが君ががっかりして学校をさぼるのが
心配なものだから、やっぱり出すことにしました。人にそんなに喜ばれたのは生まれて初めてだよ!
それでは、今日はこのへんで・・・・・・・・・・・・・テストがんばれよ!!・・・・・・・・・克彦 １２月１４日
やっとテストが２日目を通り過ぎようとしています。あと半分 !!
その半分に数学・英語・古典などなど 嬉しくない教科が並んでおります。
まったく、エベレストをふた山もこえなくてはいけないような心境です。でも、その山を越えれば
本当に天国が来るかどうか・・・・・・追試の山に襲われそうな気がします。でも今は頑張るのみ!!
追伸 : 今、思いっきり寝かせてくれる人がいたら、どんなに感謝するかしれません。重い瞼を
支えつつ数学の問題に頭を痛めているわたしを可哀想に思って下さいますか ?
敦子 １２月１５日
フ〜レ、フ〜レ、アッちゃん! テストがんばれよ !!
"テストばかりが人生じやないぜ"
克彦 １２月１６日
やっとテスト終わりました。あなたは何を聞きたいと思っているのかと考えると、やはりテストの
出来具合のような気がしますが・・・・本人もショックを受けておりますので・・・・・・・・・・・・・・・・
話は変わりますが、本当にお兄さんと思ってよいのですか? わたしのような妹を持って後悔
なさいませんか?わたしは、鈍感で現実的な、ひねくれ者です。あなたは、まだ真実にお気づきで
はないのです。これは、自分自身をよ−く見つめた結果です。あなたは『やれやれ、なんて子だ』
と呟きながら苦笑していることでしょう。そうしてあったか〜いコーヒーなどすすりながら一体どうして
こんな子と文通などやらねばならないんだ ! と疑問を抱いているにちがいありませんネ !!
わたし、よ〜く分かっているでしょう !? あなたが、とっても優しい方だという事も分かりました。
別に理想化しているわけでも美化しているわけでもなくて、あなたの手紙から、わたしが感じたこと
なのです。でも、あなたは、本当にわたしのこと分かっていませんわ!わたし素直な可愛い女の子
ではありません。あなたの期待を裏切るようですが、こんないやな人間この世に二人として存在
しないはずです。やはり、あなたは、物好きな不運な方ですわ。読み返してみて、うんざりです。
なんて意地っ張りな文章なのかしら、さっきから自分の事ばっかり書いていて返事なんてよべる
しろものじゃないわ。でも、文通って楽しいです。わたしときたら、どんなことでも便せんに書き出
してしまう手紙魔なんです。まだ序の口です、これからが恐ろしくなりますよ。あなたは、我慢して
ホンの少しでよいですから、わたしを喜ばせるために返事をくださいますか ?
そこで、質問があります。あなたは、何が好きですか ?誕生日はいつですか?よろしければ
どうぞ、答えてくださいませ。・・・・・・・・・・・・・・・・ お兄さまへ 敦子より １２月１８日
アッちゃん! お元気ですか ? この前の手紙は、随分と自分を卑下していましたね。
きっとテスト疲れでストレスがたまってセンチメンタルになっていたんじゃないのかな !?
アッちゃんは、僕が高校生の時なんかより、ずっとしっかりしていると思うよ。だから、
もっと自分に自信もってくださいよ。 質問の件ですが、僕の好きなものは??????
好きな色は清々しい青空のようなブルーが好きだなぁ! 誕生日は９月９日でラッキー９だ!
車・カメラ・音楽・動物と自然それにお金。あとは女かな。変に誤解しないでくださいよ!!
なんて貧相な考えしているんだと我ながら恥ずかしくなっちゃいます。きっと、君は軽蔑
していることだろう。てなわけで、今日は、このへんでGOOD BYE 克彦 １２月２０日
こんにちは、お兄さま !今日が何日か分かりますか? なんと、もう、１２月２１日になってしまった。
この前、手紙ポストに入れ損ねてしまいました。本当にごめんなさい。こんな、きれぎれで、何を
書きたいのか分からない手紙を差し上げてしまって・・・・・もう、昨日も今日も朝からてんてこ舞い
でした。テスト休みをいいことに洗濯、掃除、食事の支度もう!次から次ぎへと仕事が出来るんです。
女って、つまらないな、なんて思いました。でも、心を込めて作った料理を愛する人が美味しそうに
食べてくれる時の、あの気持ち、男に生まれていたら味わえないんだぞ、などと自分を慰めております。
あなたは、もう一度生まれ変わるとしたら男と女、どちらがよいですか ? （ またまた変な質問 ）
わたしは女でよいです。女なんてつまらないなんて言いながらも、やっぱり女が良いなんて、
自分でも不思議なのですけれど・・・・・あなたは、差出人の名前のない封筒を見て驚くことでしょうね。
実は、自分の名前を封筒に書かないのは、わたしの悪い癖の一つなんです。相手がびっくりする
だろうな、なんて考えちゃうと、楽しくなってしまって、ついつい・・・・・・・・・・・というわけなのです。
わたし、来年で１９です。あなたは、２０歳になったとき、どんなこと感じましたか ?
今、わたしは、大人になってしまうのが、いやで仕方がありません。このままずっと時間が止まれば
いいなんて夢見る乙女的、逃避で、目前に迫る現実から目を反らそうとしています。
今晩は、いやにロマンチックな風に吹かれてしまいました。意外と真面目に書いています。
どうぞ、幼いわたしを笑わないで!! では、また・・・・・今、まだ１８歳の敦子より １２月２１日
アッちゃん、お元気ですか !? 学校も、そろそろ冬休みだね。早いもので、今年も残り少なく
なりました。振り返ると、今年もやり損ねた事が多い気がします。でも、今年一番の収穫は
君の親友のミッちゃんの紹介で、こうして君と文通することが出来たことです。
今では、差出人の名前のない封筒が来るのが、とても待ち遠しくなっています。
ところで、君は料理が上手なようですね !毎日、同じものを食べさせられるのは嫌だが、
君の真心のこもった料理を食べてみたくなりました。今から君の手紙の質問にお答えします。
もう一度、生まれ変わっても、僕は、やはり男がいいです。そりゃ、女性の方がおしゃれしたり
感受性が豊かかもしれないが、自由気ままに世界を旅したり、自分の夢に向かって誰にも
束縛されることなく生きて行くには男の方がいいなと思います。女性の特件は子供を産める
ことです。男には、決して出来ません。そうして母になれることも素晴らしいと思います。
僕が二十歳になったときの感想は、別にどういうことなく１０代の延長のような感じで、今日から
僕も大人の仲間入りしたんだ。酒もタバコもおおぴらに飲めるんだなぁ!
選挙権も行使出来る。大人の素敵な女性と恋愛して、いつか結婚することくらいかな。
今思えば、発想が貧困だね !君は、手紙で大人になるのをひどく避けているようだったね。
大人になることは、なんか汚いものにさわるみたいに捉えているのかもしれないが、人間は
例外なく、みんな年をとり、そしていつか死を迎えるんだ。いつまでも１０代のままでいたい
純粋な子供のままでいたいという気持ち、分からないでもないが君の親友のミッちゃんや
たくさんの仲間も大人の世界に入って行くのだから、もっと明るい気持ちで未来を見つめた
方がいいと思う。僕なんか君みたいに人生を深く考えてなんかいないんだ。
この次の手紙はお正月を過ぎてからになると思うけれど、アッちゃんも良いお正月を迎えて下さい。
それでは、よいお年を・・・・・・ 克彦 １２月３０日
あけまして おめでとうございます !!
只今 新しい年の０時４４分３５秒 ぴったりです。わたしは例年のように紅白歌合戦を見て、
お風呂から出たところです。あなたからの手紙、昨日（６時間前位ですが）届きました。
わたしなんかの手紙で、あなたが喜んでくださるなんて・・・・・・・うそみたいです。
わたしも、嬉しくって ウキウキしてます。
あなたは映画が好きなようですね。わたしも好きですけれど、今は差し迫る受験で見る暇がないです。
受験が終わったら、思いっきり見たいです。ロマンチックな映画のビデオはないかなぁとビデオ店を
捜してはおりますけれど。話は変わりますが、わたし北海道と沖縄と富士山の頂上に行って
みたいんです。あなたは、旅が好きなようですね。ひとりでいらっしゃるんですか ?
もしそうだったら、羨ましいなぁ ! わたし、気ままな一人旅に憧れております。
なんだか以前よりも、あなたが身近に感じることができます。今まで遠くの遠くの得体の知れない人物
に書いているような気も無きにしも非ずで名前をお呼びするのにも躊躇いを感じていたのです。
このわたしも一応人並みの感情は持ち合わせていますから・・・・・・・・・・・・・・・・・
でも今は、違います。数少ない、あなたからの手紙をいただいただけなのに・・・・・・・・
これも、わたしのズーズーしさの現れです。だから、わたしにあまり優しい言葉 書いてはいけません。
少し冷たい位が丁度なんです。それに、わたしの言うことを美化して考えることも危険です。
だいたい言っている事の半分以下と思って下されば丁度ですわ。例えば料理ですが一応、心を
込めて作ってますけれど・・・・味の方は、私の希望に背いてくれるばかりで・・・・・・・・
お皿を前に、ため息をついてしぶしぶ箸を持つ可哀想なあなたの顔が浮かんでしまいます。
蹴飛ばす方が、わたしには合っているかもしれません。（最近はやっておりませんが）
今は元旦の２３時１５分です。あなたは、どのようなお正月をお過ごしですか ?
雨がシトシト降ってつまりませんでした。今日一日は・・・・・・・
去年は、ちょっぴり悲しい事がありました。あなたとの文通がなければ今頃、わたしは・・・・・
やけ酒、フテ寝といったところだったかもしれません。でも、なんだか冴えないなりにも生きているって
事は幸せなんだと考えて返事を書かせて頂いてます。悔いを残すと後悔するとでは、どう違う
のですか ? わたしは後悔をしても悔いは残したくないと思うのです。
わたしの青春は後悔の連続で繋がっているのではないかとよく思います。
それというのも、わたしが後悔ばかりしているからですけれど・・・・・・・・・・・・・・・・
でも、過去を悔やんでも仕方がありません。わたしは前を向いて背筋を伸ばして歩こう !!
と決心しております。訳の分からない事ばかり書き並べてごめんなさい。
時たま、自分の子供っぽさに苛立ってしまいます。自分で勝手に疑問をだして、その結論の
様なものに、ひとりで納得しているのですから。大人になるのが嫌 嫌 嫌・・・・・・・・・
それなのに自分の幼さが情けなくって。もう !! 今のわたしは矛盾の固まりです。
これ以上ペンを進めても楽しいこと書けそうにありません。でも、明日は、きっと明るい光が
差し込むことでしょう・・・・・・では、おやすみなさい !
敦子 １月元旦
今晩は ! 今、２日２２時３５分です。ベットの中から失礼しております。
眠りに入る前のひとときって好きなんです。日記をつけたり本を読んだり こうして手紙を
書いたり・・・・・・今日は、散歩に行きました。犬を飼っているんです。
『幸太郎』といいます。ヨロシク !! 中犬の雑種で真っ白なのですが、すぐよごすので茶色に
近づきつつあります。克彦さん、犬は好きですか ? 動物って可愛いです。人間と同じに
感情も表情もあるんですよ。本当に家族の一員みたいで時々、人間じゃないかしらって思う位。
散歩に出て、人のいない所で鎖をはずしてやるんです。そうすると幸太郎は、すっとんで
どこかへ行ってしまうくせに、わたしが隠れたりすると心配して、あちこち走り回って捜すんです。
わたしは、幸太郎がすぐそばまで駆けて来るのが聞こえると『わっ !!』っと言っておどかすんですが
幸太郎は、いつでもびっくりして飛び上がります。犬の話ばかりになってしまいました。
つまりませんでしたか ? ほら !! あくびなんかしてますね。わたしにはよーく分かるんですから
まだ見ぬ あなた様のことに想いは廻り 眠れぬ夜を過ごしております。・・・・・・・・・・
うふ 今夜は、とても熱が高いようですわ。 でもお願いです。わたしのことを考えるのは
おやめ下さい。現実と空想の違いに失望なさるだけですもの。わたしには、ちっとも女らしいとこ
ありません。自分でもげっそりしてしまいます。ですから、あなたも、げっそりする前に、お止めに
なった方が身のためです。今年は、ちょっぴりでも良いことがあるでしょうか ?
こんなこと言うと去年がまるで悪いことだらけみたいですけれど。これは、単なる新しい年に対する
期待です。わたしはズーズーしい上に欲張りなので現状に満足が出来ないのです。
満足したと思ってもすぐいやになってしまいます。移り気なんですね。勿論、克彦さんに対しては
違いますけれど・・・わたし、人を嫌ったり信じない事は、我慢できないんです。
人を信じるから人が信じてくれる。騙されることを恐れて、信じないでいるより、信じたままで、
騙された方がましだ、などと単純な信念を持ったまま、こうして来ましたけど、甘い賭などと
不安になったりします。 年賀状ありがとうございます。出すのが遅くなってしまいすいません。
お詫びと言っては何ですが、四つ葉のクローバーを同封します。ささやかながら、あなたに
幸運が訪れますように☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ では、また
やさしいお兄さまへ !? あなたの可愛い !? 妹より １月３日
こんにちは、お元気ですか ? 勉強の方はどうですか? 何、あまりはかどらないですって・・・
来月から試験が始まりますぞ! 頑張らなければいけませぞ! 幸太郎君も元気ですか ?
月日の経つのは早いもので、今月もう半分を過ぎようとしています。１５日は成人の日。
毎年のことながら成人を迎えた人たちを見ると、つい微笑ましく感じます。君も今年は１９歳
まだ、１８歳だよ聞こえてきますが・・・・・近づく次の成人の日をどのような気持ちで迎えますか?
君の家に配達される僕の手紙をご両親はどう思っていることでしょうか?
『やれやれ、うちの娘も、彼氏が出来る年頃になったか』と、ちょっぴり不安そうに考えている
かもしれません。妹さんは冷やかしたりしませんか?姉妹って兄弟とは違う世界がある
みたいな気がします。君は、毎日、日記をつけているそうですが、その中に多分、僕のことも
書いてあるだろうなぁ!人に自分の事を書かれると変に照れくさくなってしまいます。
何、自惚れるなですって !僕自身を自己診断すると、我が強く、意地っ張りで、神経質で
意志薄弱で落ち着きが無くて、その上子供っぽいもんだから同僚よりも意外と若く見られて
どこかの学校の前に立っていたら学生と勘違いされてしまうかもしれません。
自分自身、苦労が足りないなぁと痛感しておりますが・・・・修行あるのみ
先日、ひとりで泉公園に出かけました。なんとなく出かけたと言った方が適切かもね。
つまり、物思いに耽りながら散歩したかったのかもしれません。公園は余り人影がなく午後の
陽射しが心なし暖かく感じられました。散歩しながら頭をよぎるのは、何か淋しい、空しい
たった一人孤独に浸かっていると言った、いろんなものが交錯して変な気分に包まれて
孤独を背負って冬の公園をとぼとぼと歩いていました。まさに、そんな気分に浸りたかった
のかもしれません。何か人生がふと空しくなってしまうのです。君には理解出来ないだろうな。
池には、どこから飛んで来たのか、以前より多くの鴨が白鳥やアヒルと一緒に仲良く泳いでいました。
餌を投げ与えると『ガーガー』と強請るように僕の方へやってきました。僕は枯れた芝生に
横たわり、ぼんやりと澄んだ冬の青空を眺めていました。風もなく午後の陽射しが優しく僕を
包み込むように、好きなスカイブルーの空に心が溶け込んで行くみたいでした。
何、気障なこと書いているのだと君は笑っていることだろう ! 君にはこんな気持ち分かるまい!!
ところで、君は北海道と沖縄そして富士山のてっぺんに行ってみたいと書いてありましたが
普通の人は、すぐ外国に行きたがるけれど、日本にも未だ行ったこともない知らないところが
たくさんあるんだよね。君は通常の人の感覚と違うところが素敵だと思うよ。
君とこうして手紙のやりとりをしているけれど、他の人が知ったら時代遅れと笑っているだろうね。
携帯電話やパソコンのメールですぐに送ったりすることが出来るのに、意識的にそれらを
拒否している君って、なんだか個性的で素敵に輝いて見えるんだよ。僕も最初は君の親友の
ミッちゃんへの義理で気が進まないまま手紙を書いていたが、今では、すっかり手紙の良さを
心から実感しているんだ。封筒に記念切手を貼ったりして直筆でうまい下手に関係なく自分の
文字で便せんに心のこもった手紙を読むと何か暖かいものを感じるんだ。ワープロの文字では
決して味わうことの出来ない暖かさがあるんだ。手紙の良さを教えてくれた君に感謝している。
ところで、アッちゃんは恋をしたことありますか ? 初恋、失恋いろいろ織り交ぜて君の恋談義を
是非とも聞いてみたくなりました。 女性として、君の人生の幸福って何ですか ?
ここで、気の弱い兄からの忠告があります。男を単純に信じちゃだめです。
男はオオカミと思いなさい。 甘〜い誘惑には気おつけなさい !!
では、さようなら・・・・・・・・・・冴えない兄貴より 可愛い!?妹へ １月１４日
お元気でいらっしゃいますか? この手紙、いつも来る敦子からだと思ったでしょう ?
気を持たせてごめんなさい。あたし、光恵で〜す。
元旦早々の年賀状ありがとうございました。１２月中は、ずっと忙しくて・・・・・・・・・
元旦に間に合わず、すいませんでした。敦子さん、とても喜んでいます。
無理にお願いしちゃったみたいでゴメンナサイ。でも、快く引き受けて下さって
本当にありがとうございました。 改めて、お礼申し上げます。
もうすぐ試験が始まるというのに " 悩み多き青春 " で四苦八苦しています。
夜遅くまで勉強していても、ふっと頭に思い浮かんだりして・・・・・・・・・
今は何も気にしないで大学合格を目指すしか仕方がないのかもしれません・・・・・・
あたしの試験日は、来月です。陰ながらでも、少しは応援して下さいね。
あなたの方は、毎日カメラ片手に忙しく飛び回っていることでしょう !
気を遣う仕事で大変ですね。 がんばってください。
寒さの厳しい毎日ですが、" 雪解けの春 "を待ってお互いに頑張りたいと思います。
では、お元気で 光恵 １月１５日
こんにちは、お元気ですか ? わたしは、とても元気です・・・と言いたいところですが
風邪をひいてしまい、つい先日まで寝込んでいたのです。熱が４０度に上がって
１週間も下がりませんでした。と言えば返事をさぼった怠慢なわたしを許してもらえる
でしょうか。とにかく苦しい病の床の中で克彦さんからの記念切手付きの手紙を
受け取りました。『もう死ぬんだ』と諦めていたところだったのですが・・・・・・
おかげで救われました。 ありがとうございます ! 今日は１月２４日です。
新学期というより最終学期と言う方がぴったりきていて何もかもが慌ただしく焦っております。
本当にごめんなさい。ついつい、わたしの怠慢な癖が出てしまって深く反省している私ですが
こんなわたしを、あなたは許してくれますか ?この前の手紙で自分のこと、意地っ張りと書いて
ありましたが、そんな感じないでもないけれど、でも男らしいということじゃないですか ?
『お兄さまの自己性格診断』は、どんなにまじめ腐って書いたかしらと思うと可笑しくなります。
わたしの良い所は、そうですね・・・・エエト・・・忘れっぽい所と身長が１７３センチある所かな。
忘れやすいという事は、物事をクヨクヨ考えたりしないで済みますし背が高いので、すぐ
網棚の上に鞄を置けます。 （本当は悪い所と言った方が早いみたいだけど）
お兄さま、今度は、ご自分の良い所をお書き下さい。謙遜などなさらずに・・・・・・・・
（わたしのズーズーしさを発揮して）どうしてもお願いしたいことがあります。
光恵さんを慰めていただけませんか。彼女、メールフレンドから交際を断られたんです。
ずっと信頼していただけにショックが大きいようです。どうぞ、何気ない明るい手紙でも
書いてあげてくださいませんか。しばらくすれば何もなかったような顔をする人ですが
淋しいに決まっています。こんな女学生じみたことに巻き込んでしまって煩わしいことと
思います。でも、こんなわたしに手紙を書くより何倍も価値があります。
心優しきお兄さま、どうぞ願いをお聞き届け下さいませ。
話は３６０度変わります。女性としての幸福ですって ! " わたしの ? "
女としての幸せは、やはり恋です。恋をすると 生きることは すなわち愛すること
ということになってしまいます。女はそれでもよいのですけれど男はそうはいかないのだろう
と思います。如何です。克彦さん自身は、どんな恋愛経験をお持ちですか ?
わたしは、小学校４年の終わりに幼なじみが転校するときに訳もなく悲しかったのを
覚えています。もちろん恋などという言葉も知りませんでした。失恋は高校１年の時です。
中学校の時から付き合っていた人がいたのですけど、３年目にして、やっと真実に気がついた
らしく、ふられてしまいました。さすがのわたしもこればかりは即忘れるというわけには
いかなかったのです。今ではもう平気ですけど、この世に物好きな方が減ってしまい
この分じゃ、一生独身だとあきらめております。
男はオオカミですって?! その位 分かってますわ。まず自分の事を『冴えない兄貴』
なんて謙遜した様子を見せておいて突然バッと変身するんでしょう。
でも、まだ甘〜い誘惑とやらは拝見しておりませんが☆☆☆☆☆☆
では、このへんで。。。。。。月夜に吠えるお兄さまへ
敦子 １月２４日
お元気ですか !? 今は１月２６日午後２時２３分で〜す。
実を言いますと、今、地学の時間なのですが先生が自習にしてくれたので、こうして
こっそり手紙を書いているという訳なのです。今まで書いた所を読み返してみたのですが
前回の手紙で４０度の熱が１週間というのは、少しきついジョークでした。
せいぜい３８度にしか上がりませんでしたので、どうぞご心配なく・・・・・・・・・
この頃、返事が遅れ気味でごめんなさい。少し急いで書いたら誤字を４つも作ってしまいました。
遅れついでに、お見苦しい所もお許し下さい。
では、さょうなら。 大好きなお兄さまへ
怠慢な妹より
追伸、 だんだん本性が出て来たような感じです。
これから、もっとズーズーしくなってしまいそうですけど、優しいお兄様は、大目にみて
くださいますわよね !!
可愛い妹、アッちゃん。。。悪質な風邪なおってよかったね !!
４０度で１週間と聞いて、お見舞いに行かなくちゃと本気で心配しましたよ。
もしかして、このまま死んでしまうのではと・・・・そうなる前に君を抱きしめKISSして
君を苦しめる風邪ウイルスをすべて僕の中に吸い込んで君を助けたい!!!!!!!!!
などと、そこまでは考えませんでしたので悪しからず!!
手紙で書かれていた事は頭に入れておきます。
僕の方は、最近、仕事が忙しくて疲れた身体であちこち駆け回っています。
もうすぐ、試験が始まるけれど、がんばれよ !!
克彦 １月２８日
親愛なるお兄様、ご機嫌いかがですか ?
今は２月１日の午後１０時４２分です。一体、お兄様は何をしていらっしゃるのだろう
と思いつつ手紙を書いています。あなたの妹は、兄様のありがた〜いお叱りの言葉が
身に滲みたようで深く反省しております。 けれども『風邪をひいてよかった』
と減らず口もたたいております。何故かというと一度風邪をひけば免疫が出来て
今年の冬は、もう大丈夫だと言うのです。兄として、このような生意気な妹をどうしようと
お思いですか ?３月２０日〜２５日まで北海道へ旅立ちます。札幌、登別、洞爺、函館を
回るつもりです。兄様は仕事で全国を飛び回っているんでしょうね。
わたしは、勿論初めてです。天の川を是非見たくて寒い寒い日本の北の端へ行くこと
にしたのです。もしかしたら北海道が気に入って住み着いてしまうかもしれません。
そうしたら、北海道から手紙を出します。悪しからず。（笑）
こんなことばかり書いて来て これで受験生なのか !! と憤慨なさってるでしょうね。
でも、ご心配なく手紙の上では好きなこと言ってますが実際は、真面目で純真で
勤勉な（ ?）女学生そのものなのですから。人をびっくりさせて喜ぶという不謹慎な
癖がありますが・・・・・・・ところで、お兄様は現在恋をなさってますか ?
わたしは、今、二人の人に恋いこがれております。ひとりにしろと言われても悩んで
しまうだけです。相手は誰だと思いますか ? 克彦さん・・と言ったらどうしますか ?
うふ・・・・・・・ドキッとした ? 本当は高村光太郎とF・ショパンです。ご安心下さい。
これは、あなたのきついJoKeへのお返しです。この前の手紙は、あちこち感嘆符が
ふりまかれていて、まるで一足先に春でもやって来たような調子で書かれてありました。
とても楽しく読ませて頂きました。本当に何か良いことでもあったみたい。
今は日本史の授業中です。怖い兄貴の戒めも聞かずに、そして先生の存在を無視しつつ
ペンを走らせております。わたしは今、教卓の前でしゃべっている先生が大嫌いなのです。
教科書通りの退屈な授業で思想などひとかけらも入ってないんです。あんな魅力のない
男も少ないと思います。また、兄様に怒られそう・・・でも、わたくしは不屈の精神を持って
あなたに相対することを誓うものであります!! （まずは、その精神にのっとり）
私が光恵さんと一緒になって、あなたをもて遊んでいるなんて、そんなひどいこと私に
出来ると思っているのですか!!この純情で清廉潔白な乙女を疑うなんて・・・・・・
などと言いつつ私も相当楽しんでおりますが、でもこれだけは言えると思います。
兄様は被害妄想狂の気が多分にあります。（笑）
あと約１ヶ月で卒業です。ところが私には何の自覚もないのです。もう周りに甘えては
いられない歳だというのに相当呑気で困ります。卒業してもし受かれば大学に行き
将来は教師か保母として働くつもりです。その時は、もう二十歳、未成年じゃなくなるんです。
わたしのような人間、一人前の社会人としてやっていけるかどうか心配です。
それに結婚だって、差し迫った問題になりつつあります。今のわたしは結婚は、人生の墓場だと信じているのに・・・・・
何から何まで子供じみていると思われても仕方がないと思います。
でも、今の素直な心境です。本当は未来が怖いのかもしれません。まして結婚など今までの
私には、かけ離れであって自分がその世界に足を踏み入れることなど考えただけでゾッとします。
兄様に比べて私はどんなに背伸びをしても子供のままです。明日への期待はあります。
でも不安も、それ以上に大きくて胸が苦しいんです。
あと１〜２ヶ月もすれば、消えてしまうような気がするのですが・・・親愛なる兄上様に
聞いてほしかったのです。あまり面白くない話ですみませんでした。
こんなわたしと文通していてつまらなくないですか ? ふと心配になりました。
いやに今夜は悲観的です。心から誰かに甘えたい気分です。
本当にわたしは我が儘で身勝手で他人への依存心が強い女だ・・・とつくづく感じております。
では、さようなら
自称 愛に生きている☆☆という兄上様へ
まだまだ、幼い妹より ２月１日
僕はドキュメンタリーの仕事で海外にしばらく出かけることになってしまい、
これが彼女からの事実上最後の手紙となった。
僕は、旅立ちに際して彼女に何も話さなかった。変に気を遣わすのが嫌だったのかもしれない。
否、彼女の純真な愛を受け入れるのが怖かった。
衝動に駆られて彼女を傷つけるのが心苦しかったのかもしれない。
事情も知らずに彼女は僕からの手紙が来ないことにとても傷ついたことだろう 。
彼女も僕も何となく予感めいたものを心のどこかで感じていたかもしれない。
否、彼女の方が煮えきれない僕に愛想がつきたのかもしれない。
彼女は卒業後、大学に進学して楽しいスクールライフを送られていることだろう。
そして新しい恋人と巡り合って幸せに暮らしていることだろう。
彼女に逢いたい気持ちはあるが、お互い逢わない方がお互いのためになることだろう。
こうして、初めてのペンフレンドは甘酸っぱい香りを漂わせながら終焉を迎えた。
それから、しばらく時が経過して新たなペンフレンドが僕の前にやってくることになった。
この続きは、別の機会に書き綴ることにしたいと思う。
次回、第２部をご期待・・・・・・・・・・